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2025年3月10日 地域日本語教育の現場に多読を!

  • 執筆者の写真: YN
    YN
  • 3月10日
  • 読了時間: 9分

更新日:3月11日

こんにちは。

日本語多読用リンク集
日本語多読リンク集

今回は、「やさしい日本語」の話題ではなく、「日本語多読」のお話です。といっても、「日本語多読」は「やさしい日本語」で書かれた本を読むことですから、ぜんぜん関係がないということはありませんよね。この「やさしい日本語」のウェブサイトに「日本語多読」のコーナーを作ったのも、そのような理由からです。

<日本語多読の部屋>教材のリンク集



「日本語多読」って何?という方は、こちらをご覧ください。ただ単に本をたくさん読むということではありません。効果をあげるためのルールがあります。

多読のはじめかた/<にほんごたどく>


さて、わたしは2019年頃に「日本語多読」という世界を知りました。それ以来、多読は日本語の習得にはもちろん有効だと思っているのですが、地域日本語教育ととても相性がいいのではと考えてきました。

その理由として、いくつか挙げたいと思います。


1)まず、多読が第二言語習得に有効であることについては、ここでご紹介するまでもないとは思うのですが、参考文献から調べたことやわたしの考えを書いてみたいと思います。


①多読は第二言語習得理論で重要だとされる、大量のインプット(読むこと)が実践できます。

大量のインプットはクラッシェンの「理解可能なインプット(i+1)」が有名ですが、多読では「i-1」も重要だとされています。(デイ、バンフォード,2006)

「i(学習者の今のレベル)」より少しだけ難しいものが「i+1」ですが、ほとんどが理解できる内容の中に時々出てくる知らない言葉は、文脈や挿絵などから理解できる場合があるでしょう。そのような時に、言語習得が促進されると言われています。

「i-1」は「i(学習者の今のレベル)」より易しいものです。易しいものをインプットすることによって、頭の中で母語に変換したり、考えたりせずにスラスラ読めます。そのことが、読む能力を高めることに役立つのだそうです。(デイ、バンフォード,2006)

多読では、どちらのインプットも得ることができます。


②第二言語学習においては学習者が興味ある内容を自分で選ぶことが重要だと言われています。多読では、学習者が自分の気に入った本を選び、楽しみながら読みます。いわゆる読解のような「勉強」ではありませんから、内容理解の問いに答えたりする必要もなく、リラックスして内容を楽しむことができます。


2)多読は自律学習(自分で自分の学習をマネジメントして進めていくこと)につながると思います。

語学の習得には長い時間がかかります。文化庁(今は文科省管轄)が「日本語教育の参照枠」で必要だとしている在住外国人の日本語レベル「自立した言語使用者」B1(日本語能力試験JLPTのN3相当)というのは、いわゆる初中級と言われるレベルで、学習時間が350~520時間とされています。日本語教室に参加しているような在住外国人がこれを達成するためには、教室に参加するだけではなく自分で継続的に学習することが必要です。(少なくとも公的な言語保障がない現状では)

楽しみながら学習できる多読は一人で進めることができるので、とてもよい自律学習のきっかけになるのではないでしょうか。


3)多読が地域日本語教育に適している理由について、ご紹介します。

①現在、地域日本語教育に求められていること、そして、日本語教室に参加する外国人(日本語が母語ではない人)や支援者が求めていることの大きな要素として、在住外国人の日本語の上達があると思います。日本語教室で多読活動をすることで、前述した1)の理由から、日本語の上達に充分に貢献できると思います。


②外国人参加者が日本語教室に来て本を読む楽しさを知ることで、自律学習につながる可能性があります。その際は、ウェブ上の教材リソースなど、教室外でも多読ができるように支援する必要があります。(前述2)につながる)


③多読活動は日本語教室で取り入れやすく、負担が少ないと思います。

理由の1つ目は、多読は1回完結の活動であるということです。日本語教室に参加する外国人は毎回参加する人もいますが、仕事や用事でお休みすることも多いです。多くは支援者に連絡なく、来たり来なかったりするのではないでしょうか。そのような教室では、1回で終わる活動が適していると思います。

2つ目の理由は、参加者(外国人、支援者共に)の制限が少ないということです。外国人参加者の日本語レベル、出身や性別などその他の属性は、多読活動に影響しません。(もちろん本が嫌いだという人もいますので、だれもが楽しめるというわけではないと思いますが)

また、支援者にとっては、あまり準備する必要がないことや、日本語や日本語教育に関する知識なども必要ありません。ただ、一緒に読んだ本について楽しく話したり、入門レベルなどの人には、本を読み聞かせしたりすればいいのです。

一般的な多読活動のためには、本と場所が必要になりますから、すぐに始めるのは難しいかもしれません。その場合、手に取れる紙の本を使った多読活動ではなく、ウェブ上にある無料のデジタル教材を使うといいと思います。(上記のリンク集に教材がたくさんあります。)対面の教室ではなく、オンラインでの活動であれば、より取り組みやすいと思います。


つまり、活動の負担が少ないのに、日本語上達などの効果は大きいという、夢のような(?)活動ではないですか?!それに、何より楽しいのですから!

 

実践例

1)<にほんごたどく>のウェブサイトにたくさんの事例や報告があります。


2)わたしの経験:

①これまで出会った日本語学習者の中で、アニメや本を観たり、読んだりしていただけで、日本語ができるようになった人たちがいました。とても自然な日本語を話す上級レベルの人もいたし、日本語で話すのはわたしが初めてだという来日したばかりの人は、日常会話はほとんど問題がないレベルでした。アニメや日本語のコンテンツを趣味でインプットしている人は、レベルによらず、聴解力が高く、自然な日本語を話す傾向があります。このような例はYouTubeでもよく見かけるのではと思います。


②1週間限定でオンラインレッスンをした、日本語入門レベルの中学生の姉弟がいました。毎晩LINEのビデオ通話で1時間のレッスン。宿題として毎日5本の読み物を読むこと、新しい言葉を1つか2つ使って日記を書くことを課しました。レッスンでは何を読んだか、どの本がおもしろかったかの報告と、日記の添削とそのスピーチが主でした。これだけですが、たった1週間でもレッスン開始時と最終日では明らかに話す、書くの日本語レベルが上がっていました。保護者の方からも、そのような感想をいただきました。

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③わたしが活動している日本語教室での活動例



以上のようなことから、わたしは日本語多読が地域日本語教育にとても適した活動だと考えています。日本語教室の中だけで日本語を「教えたり」、日本語でおしゃべりしたりするのではなく、日本語教室をきっかけとして教室外でも日本語学習を進めることができるように支援し、励ます(エンカレッジ/encourageする)ことも日本語支援にとって重要な役割ではないでしょうか。


そんな中、先日、日本語支援者のための講座の講師を担当することになり、テーマを講師から提案することができるということで、迷わず「日本語多読」に決めました。

講座はオンラインで全3回。うち2回を多読の紹介とワークショップにしました。1回目は多読の紹介で、多読の有効性や、どうして日本語教室の活動として向いているのか、多読の実践方法などをお話しました。2回目は読み書かせ活動を提案し、ワークショップで実際に読み聞かせをしてみてもらいました。(3回目は「やさしい日本語コミュニケーション」の「やさしい傾聴」)


読み書かせ活動は、多読の本が揃っていなくても日本語教室で本を読む活動をしたいと思い、わたしが実践している活動です。入門レベルの人にも有効だと考えています。わたしは日本人の子どもにする読み聞かせの経験がないのですが、外国人に対して行う読み聞かせはやり方が少し違うようです。講座では受講者のみなさんに読み聞かせを体験していただき、いろいろな読み聞かせ方があることが分かり、わたしも勉強になりました。

ほとんどの受講者のみなさんは、多読や読み聞かせ活動について好意的に捉えてくださり、前向きに活動に取り入れてみようと思ってくださったようです。講座の申込みが始まる前は、だれも参加してくれないのでは…と正直不安がありました。うれしい誤算でした!受講してくださったみなさん、ありがとうございました。


<受講者アンケート回答から(一部抜粋)>

★以前より学習時間が不足していることを悩んでいたが、多読の習慣を取り入れることにより改善できそうなことを知り、是非やって見たいと思っている。

★長年日本に住んでいて、会話も自由にできているのに、日本語の本を読んでもらうと急にたどたどしくなってしまう人が見受けられます。そういう人にとって、みんなで多読するというのは、日本語の語彙を増やすのにいい機会にもなり、また本のみではなく、新聞、パンフレットなどを読むことに抵抗が少なくなるのではないでしょうか。機会があればどこかで実践活動をしてみたいです。

★第2回目の読み聞かせを受講してから数日後、インドネシアから日本に来て半年の高校1年生の男子学習者に「どうぞ、どうも」を読んでもらいました。日本語はまだ導入の段階ですが、感想を聞くと嬉しそうに「ロマンスがすき」と言ってもらえました。ほかのお話しを次回準備してくると約束して授業を終わりました。授業の楽しみができた感じがしました。

★日本語支援に対して新しい引き出しが増えた気がします。

★多読、読み聞かせを 現場で実行します。とても良い講座でした。


今回の講座を担当してみて、地域日本語教育と多読は親和性が高いことを、さらに確信することができました。これからも、機会があれば日本語支援者のみなさんに多読のよさを紹介していきたいと思います。

地域日本語教育に多読活動を取り入れてみたいと、ご興味のある方はぜひご一報ください!出前講座を承ります。

日本語教室に多読や読み書かせ活動が広がりますよう。


参考文献、サイト:

・粟野・川本・松田著、NPO法人日本語多読研究会監修(2012)『日本語教師のための多読授業入門』アスク出版

・岡崎・岡崎(1990)『日本語教育におけるコミュニカティブ・アプローチ』凡人社

・奥野編著、岩﨑・小口・小林・櫻井・嶋・中石・渡部(2021)『超基礎・第二言語習得研究』くろしお出版

・小柳かおる(2004)『日本語教師のための新しい言語習得概論』スリーエーネットワーク

・リチャード・R・デイ、ジュリアン・バン・フォード著、桝井幹生監訳(2006)『多読で学ぶ英語 楽しいリーディングへの招待』松柏社

・『日本語学』2023年秋号 明治書院

・<にほんごたどく>https://tadoku.org/japanese/

・<日本語ボランティアグループ・オルビス>https://yasanichico.wixsite.com/orbis

・文化庁「地域における日本語教育の在り方について」(報告)令和4年

・文化庁「日本語教育の参照枠」令和3年 


(山)

※本記事の著作権は執筆者に帰属します。

 
 
 

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